<最善をなさる神さる神, 命の水の泉から


 

命の水の泉から  竹下弘美 


最善をなさる神

 

い つも廊下で会うと、ニコニコして、さわやかな小太りのスーザンは私のキュービックの後ろのキュービックだった。もう五十代半ばだと思う。彼女がクリスチャ ンであることは,彼女と雑談をしている時に知った。サンフランシスコ動物園勤務のご主人が、駐車場から拾ってくる孔雀の羽をいっぱい分けてくれたこともあ る。私が華道をすること、猫を飼っていることを知っていて、この羽をお華に使ったり、猫じゃらしに使ってみたらといってくれた。

彼女は十年以上もこの会社に勤めていて、毎朝女性の人事課長といっしょに出勤していた。あまりにも肥満の人事課長は運転しづらいのだろう。近くに住んでいるスーザンが毎朝乗せてきていた。

一昨年新社屋のオープニングランチがあった時のこと。私のキュービックの後ろから電話をしているスーザンの声がした。そろそろお昼になるころで、その日は社員一同にランチがふるまわれることになっていた。その係りがスーザンだったのだ。

「もう11時50分なのに、ランチがきていませんけど?」「ランチは明日ではないの、今日ですけど」「ミスコミュニケーションだったのね。なにしろ、最善を尽くして出来るだけ速く配達して」

聞こえてくる話の内容にこちらがひやひや。相手を責めることもなく、彼女の対応のすばらしさに感嘆。ランチセレモニーはランチなしに始められた。 スーザンは落ち着いて「ランチは少し遅れますが、もうすぐ届きます」と全員にアナウンスした。そしてランチはその後15分ほどして届けられた。その対応に 感心した旨を彼女に伝えると、ちょうど未婚の弟さんが片足を切断しなければならない事件と重なって自分が前の日にちゃんとレストランに念をおさなかったこ とがいけなかったといっていた。 最近は、弟さんの病院のことと彼の世話で、てんてこまいしているらしかった。

先日午後彼女のキュービックから物を片付ける音と、話声がきこえた。「よかった。祈っていたの、これで弟の世話ができるわ」その日私の会社では従業 員の6パーセントが首を切られ、朝、人事課長が入り口で待っていて首を切られた人たちは皆即刻退社させられた。スーザンは朝医者に行っていて午後出社した ため宣告されたのだ。このごろはコンピューターの時代だから、会社のデータを持ちださないようにするため、宣告され即刻退社となる。6ヶ月分の保証金がも らえるから、スーザンはその間経済的なことを心配せずに、弟さんの世話ができるだろう。首を切られた人たち自身に問題があったのではなく、仕事じたいが無 くなってきていた人たちだった。人事課長は部署が違うから彼女の首切りを阻止できなかったという。

スーザンはこれを信仰の目で捉えた。彼女は最善をなさる主を知っているから大丈夫。

あのニコニコ顔に会えなくなったのは少し寂しいが。

 

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