命の水の泉から  竹下弘美 


恐ろしきひと時 – 弱いところに働く主

 

ま たピアノの発表会がめぐってきた。一昨年ひどい目にあったので昨年は出場を棄権した。あがってしまって、つかえてしまい、何が何だかわからなくなって、恐 ろしい想いをしたからだ。いっしょに習っている友人二人もやはり、同じ想いしたので、昨年は棄権した。けれど先生の「そういう目的がないと、上達しません よ」の説得の言葉に、この去年の棄権組三人とも、今年はしぶしぶと、チャレンジしてみることにしたのだ。

もともと老化防止と楽しみのために始めたのに、こんなストレスを味わうのでは、元も子もない。けれど、やると決めた以上、最善を尽くしたい。毎年、 ぎりぎりで仕上げるため、ちょうど、フィギアスケートの選手の回転が本番でうまくいけばいいけれど、うまくいくことがあるという程度では駄目なのと同じよ うなかんじだ。完全に仕上げていなければ、本番では緊張するから、何がおこるかわからない。

今回は早くから、先生が曲目を決めてくれた。知られている曲ではよほど、上手に弾かなければ聴衆にわかってしまうという、先生の配慮で、倉本裕基氏 作曲の「ほのかな愛」というとても美しい旋律の曲になった。かなりの練習期間があったので、少なくとも一昨年よりはましだろうと思った。それでも暗譜する ということなど考えられない。一ヶ月前から発表会に出る友人宅のグランドピアノでミニリハーサルを行い、人前で弾く練習をした。友人たちは「きれいな曲だ から、間違えても曲の美しさでカバーするから大丈夫」と言ってくれる。たしかにシューベルトの「即興国」を弾いた友人についてもその曲のすばらしさに、ノ ダメカンタービレの千秋様級だから、少しぐらい間違えても許されると思わされた。ミニリハーサルでも人目を気にするとすぐつっかえたり、間違える。完全に できない。大丈夫だろうか。家のピアノで弾く時でさえ、完璧ということがない。こんな恐ろしいことはない。日は迫ってきて、当日となった。午後3時からの 発表会だ。朝20回弾いてみた。これ以上もうできない。後は祈り以外ない。娘息子にもメールで私の弾く3時半ごろに祈ってくれるように頼んだ。

どの人も家族以外、誰もお客さまを誘うことはしなかった。怖いからだ。会場は先生宅のリビングルームなので、そんなに緊張しないはずだが、やはり、 異様な雰囲気。出場者9名、平均年齢50歳。最初の友人も指が震えているのが客席から見えた。そして、私の番。指ががたがた震えている。中ごろ、少しそれ が収まり、難しい個所にかかった。

弾けた!! それ以上に感情を込めて弾くことができた。
ハレルヤ!! 主が多いに働いてくださった。子供たちの祈りがきかれた。
弱いところに働く主である。

 

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