命の水の泉から  竹下弘美 


天国でのすまい

 

十七年前にオレンジカウンティから北カリフォルニアに引越すことになり、家を探さなければならなかった。夫が「一生に一回はビューのある家に住みたい」と不動産やさんに話した結果、見つけた家が、サンフランシスコ湾を見渡すこの家だった

ビューがある上、手ごろな値段であったこと、また勤務地への距離から、ここに決めた。小高い山の頂上にあって裏庭からサンフランシスコ湾が見えるの だが、一段下になっている前の家に大きなユーカリと松の木があって少しビューが妨げられていた。我家で経費をもつことを条件に前の家の了承を得、ユーカリ と二本の松の木の上の部分を切らせてもらい、少し眺めがよくなった。

それから十七年が経った。ユーカリの木の育ち方はすごい。 松の木もかなり大きくなり、家の真ん中にその三本が陣取って、サンフランシスコ湾を遮る ようになった。私たちの住むサンカルロスという市では直径11.5インチ以上の木を根から採ってしまうことは、よほどの理由がなければ許されていない。こ の木を前のように枝を払うだけにしていたら、またすぐ伸びるだろう。交渉のうまい夫は市にかけあうことにし、その前にこの木の持ち主である、前の家二軒に 話しにいった。こちらが費用をもつということで、合意。また我家の隣の家にとってもこの木は邪魔なので、隣の家と両者で経費を出そうというところまでトン トン拍子に話は進んだ。夫は、この家を売って老後の費用にするということが念頭にあったのだ。眺めがいいということで、高値がつくという目算だ。まず、市 に根こそぎ抜いてしまうための許可をもらう理由を考えなければならない。 夫が下の家に行ってその松を見ると、黄色くなっている部分がみつかったそうだ。 何か、木の病気ではないかと、それを理由に申請書を提出し、紆余曲折があったが、許可が出た。

当日は小雨だったが、大きなクレーンがきて、6時間かかって三本の木が抜かれた。サンフランシスコ湾がすっかり見えるようになった。その晩は隣の家に招かれ、お互い三千ドルも木のために払った者同士、祝杯をあげた。

あまり、ビューがすばらしくなったため、目的は近い将来家を売るためだったのに、夫はこの家に未練が出てきたようだった。でも明らかにリタイアしたら、経済的にこの家を維持していくことはできない。

でもきっと天国にはもっと景色の良い家が用意されているだろうと期待している。

友人が訪ねてきた。「木がなくなっちゃったじゃないの、どうしたの?」

「聖書に書いてあるように海へ入れって言ったら、海に入ってしまったのよ」

と冗談を言いながら、天国に行く前に今はこの景色を大いに堪能しようと思っている。

 

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