命の水の泉から  竹下弘美 


辛き物あることも嬉し

 

日本の母を訪ねたとき、トイレにかかっていた絵とそれに添えられた言葉に惹かれた。

トイレに入るたびに読み返した。一斉を風靡した故武者小路実篤氏作で、一本の赤唐辛子の絵であった。彼の独特の手法の黒で縁取りされて、とても情緒 がある。そこにはまた、味のある字で「辛き物あることも嬉し」と書かれていた。そうだ、辛い物があるから、甘い物の味があるわけだ。また辛いという字はつ らいとも読む。言い換えればつらいことがあることも嬉し、ということになる。つらいことがあるから、喜びもあるのだ。

同じような内容の詩に出会った。

混血で生まれたクラーク桂子さんの自叙伝の中である。
「ほんとうの幸せにしみじみとむせび泣きたいのなら、あなたよ
今日の不幸せには、笑って耐えようではないか、
友よ、明日泣け」
という詩である。これは40年以上も前ラジオの文化放送「今晩は 森繁久弥です」という番組の冒頭で読まれていたという。ちょうど、自分の出生故に悩み、 苦しみ、その結果、自殺未遂をした桂子さんがこれをきいて、彼女はその番組に投書した。そして、多くの聴取者から励ましの手紙をもらい、その話は北カリ フォルニアにまで及んだ。日本語のわかる青年から便りがあり、その結果桂子さんはその青年クラーク氏と結婚し、現在にいたっている。

「まっ暗々の暗闇で、しくしくやっているのは誰?
もしかしたら僕、ひょっとしたら君
灯りをがいるんだ、忘れているんだ
灯りをともそう、オレンジ色の灯りをともそう
目をつむってちゃだめなんだ、 しっかり見なくちゃだめなんだ
心の扉を閉めきってうつむいてるのは誰?もしかしたらあなた
ひょっとしたら私、灯りがいるんだ、忘れているんだ」

これは森繁さんの番組の聴取者会が桂子さんをアメリカに送り出す時の会場で皆といっしょに歌ってくれた歌だそうだ。

そして渡米結婚後、桂子さんは心の扉を開いた。そしてノックしていたイエス様を受け入れ、今幸せな生涯を送っている。灯りをともしている。
お孫さんも3人、一緒の教会に集っている。本当の灯りである主イエス様を信じて。

辛い人生を歩んだ故の今がある。

 

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